古木に宿る空海の息吹

 四国八十八ヶ所で最も高い標高911mにある第66番札所・雲辺寺から第67番札所・大興寺に続く遍路道は、かなり長い下り道をひたすら歩きます。四国山脈の山中からみかん畑に出たあたりで山道が舗装道路になるのですが、そこからの緩やかな下り坂もまた長い。3時間近く淡々と歩き、やがて田園風景に点在するこんもりとした森のなかに大興寺がありました。

 大興寺も歴史の豊かなお寺で、みどころや話題がいろいろあります。山門をくぐろうとして、ふと説明板をみると、この門を守っている仁王さまは鎌倉時代の代表する仏師、運慶の作と書いてありました。ずいぶん大きな仁王像で、身の丈は3mを越えるそうです。

 そして、山門を入ると、階段の手前右側に高さ20mにもなる大きなカヤの木があります。このカヤの木は樹齢が1200年にもなるそうで、弘法大師が撒いた種がそのままいまの古木となったとされます。本当に空海本人が種を撒いたかどうかはともかく、空海が活躍した時代からこの場所に生えていたのかもしれないと考えると、「当時の風景はどんなだったのだろうか」などと思わず想像をたくましくしてしまいました。また、階段途中の右側には、大変立派なクスノキがあり、こちらも弘法大師が苗を植えたとの伝承があります。このクスノキの樹齢は数百年との見方もあり、弘法大師が植えたクスノキが世代交代しているのかもしれません。

弘法大師が種を蒔いたとされる樹齢1200年のカヤ(右)。石段の右側にはクスノキの大樹がある

 太子堂が二つあることも大興寺の珍しいところです。ひとつは弘法大師を祀る真言宗の大師堂で、もうひとつは天台大師堂といって、天台宗の実質的な開祖とされる中国の高僧、智顗(ちぎ)を祀っています。大興寺はいまは真言宗ですが、中世には真言宗と天台宗の道場がひとつの境内に同居していたという兼学の修行場だったそうです。真言宗が二十四坊、天台宗が十二坊あり、本堂を挟んで左右に並んでいたと伝わっています。

 ライバル関係にあった真言宗と天台宗がひとつの寺に道場を構える例は全国的にみてもほとんどないらしく、宗教民俗学者の五来重は著書「四国遍路の寺」(上下、角川ソフィア文庫)で「非常に珍しいこと」と指摘し、「両宗が教学を競うほどに、講学練達の学僧が集まったのだとおもいます」と往時の殷賑を偲んでいます。

第70番札所・本山寺は五重塔の解体工事中。境内には寄進者の名前がずらりと掲げられていました

 札所の順番に従うと大興寺の次は第68番札所・神恵院と第69番札所・観音寺になりますが、ここは前日に打ち終わっているので、第70番札所・本山寺に向かいます。実際の距離も大興寺から神恵院に歩くよりも本山寺のほうが近いです。田園風景のなかに、ところどころ宅地開発が進んでいて、だんだん街中になってきた感じです。道路沿いにも店舗が増えてきました。

 やがて交通量の多い伊予街道(国道11号)を越えて財田川にかかる橋を渡ると、本山寺が見えてきました。シンボルとなっている五重塔は解体修理の最中で、境内では工事エリアが囲われ、寄進者の名前がずらりと掲示されるなど、残念ながら落ち着かない雰囲気でした。鎌倉時代に建てられた国宝の本堂に安置されているご本尊は馬頭観音です。四国八十八ヶ所で馬頭観音をご本尊にしている札所はこの本山寺だけ。ただ、秘仏なので実物をみることはできませんでした。お参りを終え、そのまま近くのJR予讃線の本山駅に向かいました。

 この日は善通寺市のホテルに泊まることにしたので、本山駅からJR予讃線に乗り、多度津駅で乗り換えて善通寺駅に向かいました。

【第21日 午後の部】
[歩いた日] 2016.10.21
[コース] かんぽの宿観音寺-雲辺寺―大興寺-本山寺-善通寺グランドホテル
[天気] 曇りときどき晴れ
[歩行距離] 24.8km
[歩数] 3万1769歩

【利用した公共交通機関】
 <本山駅-多度津駅-善通寺駅>
 JR四国 予讃線・土讃線
 料金 550円
 URL  http://www.jr-shikoku.co.jp/01_trainbus/jikoku/

【お宿メモ】
[宿泊先] 善通寺グランドホテル
[宿泊費] 6,200円(朝食付)
 住所: 香川県善通寺市上吉田8-8-5
 電話: 0877-63-2111
 URL:  http://www.sakaide-grandhotel.jp/zentsuji/
[メモ]
  駅から少し離れた場所にあるホテル。ランドリーは洗濯機と乾燥機が1台ずつしかなかったので、近所のコインランドリーを教えてもらいました。私が善通寺市に宿泊したときはちょうど中四国学生弓道選手権が開かれていて、付近の宿泊施設はどこも満杯状態。従業員も忙しそうでした。

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