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高知 my遊バスで遍路旅

竹林寺参道

 JR高知駅から第31番札所・竹林寺に行くには、市内の観光スポットを巡回しているバス「my遊バス」が便利です。というより、竹林寺に行く公共交通機関はほかにありません。my遊バスの乗車券は、JR高知駅南口の改札を出て右手にある物産館「とさてらす」で購入できます。1日券で1000円。これで高知市中心部から牧野植物園や竹林寺、桂浜などを周遊して戻ってこられます。

 物産館を出て右手にいくとすぐにmy遊バスの乗車場があります。駅のコインロッカーに重たいリュックサックを預け、身軽になってバスに乗り込むと、しばらくして車内は観光客でいっぱいになり、見覚えのある欧米系の男女と目が合いました。このご夫妻を最初にお見かけした(すれ違った)のは、第23番札所・平等寺に続く大根峠の手前を歩いているとき。遍路小屋で休憩中のお二人を私が一声かけて追い越しました。続いて室戸岬行きのバスを待つ甲浦駅の待合室で一緒になり、第27番札所・神峯寺の山門から下り始めたときにも鉢合わせしました。あんまりよく会うのでお互いに親しみが湧いてきて、my遊バスの車内ではあれこれ話が弾みました。

竹林寺で写真に収まるバイレイスさんご夫妻。大根峠から、計4回もお目にかかってしまいました

 お二人は、ドイツ南部バイエルン州のヴュルツブルクにあるシーボルト博物館に勤めるウド・バイライスさんご夫妻。シーボルトとは、長崎・出島にあったオランダ商館の医師として幕末の日本に滞在したフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトのこと。シーボルトは長崎で鳴滝塾を開講して日本人に西洋医学を教えたことで知られていますが、欧州では動植物の標本を中心に大量の日本コレクションを収集した「日本学の祖」としてその貢献を評価されています。シーボルトの業績を称えた記念館や博物館は、長崎のほか、オランダのライデンや生地であるヴュルツブルクにもあるほどです。没後150年にあたった2016年から17年にかけては、日本国内でもシーボルトのコレクションや貢献を紹介する展覧会が全国を巡回していました。

 ご夫妻もこのアニバーサリーイヤーに開催されたシンポジウムに参加するために来日し、その機会にあわせて四国を回っているとのことでした。四国とシーボルトの関係は何かあったかな、と考えるうち、シーボルトの娘で日本で初めての女性医師となった楠本イネが宇和島で暮らしていたことに思い当たったので、お二人に聞いてみたら「宇和島は以前に行きました。イネの娘が日記に書いている土地ですから」と笑顔で教えてくれました。楠本イネは、司馬遼太郎の小説「花神」で主人公の大村益次郎の愛弟子かつ憧れのヒロインとして描かれているので、ご存じの方も多いかもしれません。

 高知駅から20分ほどでmy遊バスは五台山の登りにさしかかり、植物学者・牧野富太郎の足跡をたどる高知県立牧野植物園を経由して、竹林寺前に着きました。竹林寺は江戸初期から幕末にかけて歴代土佐藩主の庇護をうけた学問や文化の中心地で、格式を感じさせる御堂が並んでいます。山門から本堂に続く石畳の参道は、山の傾斜と木々を生かしたレイアウトで、気持ちのいい緑陰が広がっていました。高知の繁華街・はりまや橋でお坊さんが女性用のかんざしを買っているところをみた、という「よさこい節」の舞台でもあるそうです。納経所で料金を払うと、鎌倉時代末期から室町時代にかけて竹林寺で修業した高名な禅僧、夢窓国師が作庭したと伝わる見事な庭園をみることもできます。

庭園のように整備された竹林寺の参道。緑陰が爽やかな散歩道を演出している

 竹林寺前の停留所から再びmy遊バスに乗って技術学校前バス停で降り、海岸に近い平坦な舗装道路を30分ほど歩きました。近くには幕末の土佐藩で活躍した武市半平太の旧宅や墓があるとの案内板がありました。さきほどの竹林寺は幕末の土佐藩主で公武合体派の巨魁だった山内容堂にもゆかりの深いお寺ですし、このあたりの風景が司馬遼太郎の小説「竜馬がゆく」などで描かれた幕末動乱期の舞台だったのかもしれません。

 ほどなく第32番札所・禅師峰寺の麓に着き、車道と分かれて昔ながらの急な山道を登って10分あまり、禅師峰寺の山門が見えました。境内はそれほど高くもない標高80mほどの小山の頂上部に広がっているのですが、周囲に遮蔽物がまったくないので、太平洋の海原から桂浜を手前に横浪半島あたりまでぐるりと見渡せます。海沿いをたどる辺路が江戸時代に定着した四国遍路の原型だとしたら、禅師峰寺は地形的にみても室戸岬から横浪半島に続く海沿いの歩いて回った修行者たちにとって目印となる霊場だったと思われます。禅師峰寺の縁起に空海がここでも虚空蔵求聞持法を行ったと伝えられているのは、ここでそういう修業をしたひとたちがたくさんいた、ということなのかもしれません。そんなことを考えながら海岸線を眺めるうち、だんだん太陽が傾いてきました。きらきらと輝く海面をみていると、きょうの遍路旅も無事に終わったと、ほっとした気持ちがしてきます。

禅師峰寺の境内から桂浜方面を望む。夕方が迫り、太陽がまぶしい

 四国八十八ヵ所の札所では、参拝の受付時間は原則として午前7時から午後5時までとなっています。時間外でもお参りはできますが、お参りの証明となる納経(ご朱印)を受けられません。納経をスタンプラリーと一緒にしてはいけないとよく言われますが、札所を一つ回るごとに納経帳が埋まっていくのは、やはりお遍路さんの楽しみでしょう。だから、午後5時が近くなると、その日の遍路旅は終わりになります。
 この日は路線バスに乗って高知市内のホテルに宿泊。夕食は居酒屋に行き、鰹の塩たたきを堪能しました。

鰹の塩たたき。注文を受けてから、わら焼きにしてくれました。言わずと知れた土佐の名物料理は香ばしくてうまい

 

【第10日 午後の部】
[歩いた日]2016.10.10
[コース]遊庵-国分寺-土佐一宮神社-竹林寺-禅師峰寺-高知市中心部
[天気]晴れ
[歩行距離]27.2km
[歩数] 3万3844歩

【利用した公共交通機関】
 <土佐一宮-高知>
 JR四国 

 料金: 210円
 http://www.jr-shikoku.co.jp/01_trainbus/jikoku/
 
 <JR高知駅ー竹林寺ー技術学校前>

 my遊バス
 料金: 1日券 1,000円
 https://www.attaka.or.jp/kanko/kotsu_mybus.php

【お宿メモ】
[宿泊先]ウェルカムホテル高知
 住所: 高知県高知市追手筋1-8-25
 電話: 088-823-3555
 http://welcomehotel.jp

[宿泊費]4,980円(朝食付き)
 高知市の繁華街・はりまや橋に近く、清潔感があってリーズナブルなビジネスホテル。快適なので3泊もお世話になりました。コインランドリーも完備しています。

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