お遍路泣かせの雨は続く

 第7番札所・十楽寺の宿坊は快適なビジネスホテルのようなお宿でした。前日が夜行バスで寝不足だったためか、8時間あまり爆睡。午前6時に目が覚めました。宿坊なので、本来ならば朝のお勤めがあるそうですが、この日はご住職が出張のため中止とのこと。般若心経の上手な音読方法を耳で覚えたかったので、ちょっと残念でした。

 朝食を済まして7時45分に出発。いまにも降りそうな空模様です。なんだか昨日から天気のことばかり気にしています。

 第8番札所・熊谷寺は山あいの木々に囲まれた雰囲気のあるお寺です。お参りを済ませて本堂から出てきたら、突然の土砂降りに見舞われました。納経所でしばらく雨宿りをさせてもらい、小止みになったところで第9番札所・法輪寺に向けて歩き出しました。

熊谷寺の本堂に続く階段は周囲の緑が濃くて心地いい

 平らな田んぼに囲まれた法輪寺には、屋根付きの休憩所があります。納経所では、窓口の女性が私の頭陀袋をみて、「雨で大変でしょう」といいながら「その袋だけだと、納経帳が濡れてしまう。大事なものだから、これをお使いなさい」と、ジップロックのような封ができるビニール袋を手渡してくれました。ちょっとした心配りですけど、荷物が重いうえに雨に降られて気分が落ちていたので、とてもうれしかった。

 屋根の下のベンチで一息ついていると、いつのまにか雨があがりました。第10番札所・切幡寺に向かいます。宿屋や土産物店が並ぶ門前の路地を歩いていると、右側の表具屋さんの窓があき、「お荷物、お接待で預かってます!」と女性が声をかけてくれました。接客用のスペースにリュックを置かせてもらいます。山門から本堂までが333段という急な階段で、けっこう絞られましたが、荷物を預かっていただいたので助かりました。切幡寺も傾斜を生かした伽藍配置で、山深い雰囲気を持っています。

 お参りを終えて荷物を受け取りに表具屋さんに寄ったところ、若旦那に冷たい麦茶をごちそうになりました。この表具屋さんは須見光栄堂といい、八十八カ所巡りで納経のたびにいただくご本尊の御影(おすがた)を八十八枚まとめて額装する職人さんです。若旦那から「家宝になりますよ」と口説かれ、心が揺れました。

 そろそろ昼時でしたが、5キロほど先にある吉野川製麺所のうどんが美味しいと聞いたので、がまんして歩くことにしました。歩き続けるとき、私は「どこまで行ったら一休みしよう」とか、なるべく目先のことを考えるようにしています。シンプルな思考を心がけると、歩き続けるうちに、だんだんランナーズハイみたいな状態になってくるときがあります。感情の起伏がなだらかになってくるとでも言えばいいかもしれません。遍路の魅力は、そんな風に歩き続けること自体にあるような気もします。
 
 吉野川を越える辺りから再び雨足が強まってきました。吉野川の中州は善入寺島と呼ばれ、東西6km、南北1km、広さ500haもあり、川中島としては日本最大の面積だそうです。その7割が肥沃な農地になってます。説明板によると、かつて善入寺島には3000人が暮らしていたそうですが、台風などで増水すると島ごと冠水してしまうので、大正時代に無人島となりました。以降、農作業をする人たちは近隣から通っているそうです。私が通りかかる数日前にも台風の影響で吉野川が増水し、善入寺島に通じる沈下橋(潜水橋)が川に呑まれ、通行禁止になっていました。

 善入寺島の遍路道は島の中央を貫いており、吉野川市と阿波市を結ぶ自動車の間道にもなっています。沈下橋では、自動車1台がやっと通れるほどの狭い橋げたを地元車両がビュンビュン飛ばしていました。潜水橋には歩道がないので、自動車を避けようとすると、うっかり川に落ちてしまいそうです。台風シーズンの吉野川は水量がとても多く、うねりをみせる川面がけっこう怖かった。

吉野川にかかる沈下橋には歩道がなく、地元の自動車がビュンビュン飛ばしてくる

 やっとたどり着いた吉野川製麺所には「本日定休日」の看板。そりゃないよ、って感じですが、事前に電話しなかった私の手抜かりでした。どっと疲れたが、どうしようもありません。雨は強くなるばかり。気分はどうにもあがりませんが、次の霊場まであと3.5キロだったので、そのまま車道を歩くことにしました。

 ところが、ここでさらに気分が滅入ってしまう事態に見舞われてしまいました。途中、スピードを出して対向してきた軽トラックに水たまりを跳ねあげられ、しかもそれが積み荷らしき青い液体とともに顔から足までかけられてしまったのです。手から白衣まで青い絵の具をまき散らしたような跡がついてしまいました。もうあまりにも不快で、怒る気持ちにすらなれません。まあ、道路の歩道を歩いていた私に、大量の泥はねを飛ばしたまま猛スピードに逃げるように走って行った軽トラックの姿は、まぶたに焼き付いています。

 我慢して歩き続けるうち、「なんで、こんなにひどい目にあわなくちゃいけないのだろう」と、どんどんネガティブな思考になってきてげっそりした。ほんと、ご勘弁いただきたいです。

 第11番札所・藤井寺に着くまで雨は続き、そこから徒歩10分にある旅館吉野が本日の宿となりました。風呂に入り、洗濯をして、だいぶ気持ちが落ち着きました。それでも手や白衣についた青い色は簡単には落ちない。どうにも気分がすっきりしないので、早寝することにしました。明日は遍路ころがしの難路が待ち受けています。やっぱり、天気が気になります。

【第2日】
[歩いた日] 2016.9.29
[コース] 第7番札所・十楽寺-善入寺島-第11番札所・藤井寺
[天気] ほぼ雨
[歩行距離] 19.8km
[歩数] 25,903歩

【お宿メモ】
[宿泊先] 旅館吉野
徳島県吉野川市鴨島町飯尾1444-1
0883-24-1263
[宿泊費] 6,500円(2食付) 
洗濯機+乾燥機 500円
 第1番札所から歩き始めて最初の遍路ころがしとなる藤井寺から焼山寺への山道をゆっくり登ろうと考えると、藤井寺まで徒歩10分の旅館吉野はとてもいい立地にある。宿のご主人は親しみやすい笑顔で迎えてくれた。夕食のメーンディッシュはトンカツが定番。部屋数に限りがあるので、満室で泊まれないこともあるらしい。宿泊の予約は前日までに済ませた方が無難です。

Share
Translate »