暴風多雨が育んだ水切り瓦の遍路宿

 毎年秋になると台風が日本列島にやってきます。お遍路さんにとって「修行の道場」とされる高知も台風銀座のひとつです。私が室戸岬から第26番札所・金剛頂寺を打ち終わり、海岸線をさらに進んで吉良川町に着いたときも台風に刺激された秋雨前線のおかげで、ときおり亜熱帯のような強い雨がざーっと降る一日でした。

 吉良川町は「きらがわ」と読みます。昔から林業と炭焼きが盛んで、良質な「土佐備長炭」の積み出し港として明治から昭和初期まで賑わったそうです。そのころ、商家が次々と蔵を建てたのですが、台風の襲来をはじめ雨風の強い土地なので、一般的な蔵の建て方だとすぐに漆喰がはがれ、塀も崩れてしまう。そこで屋根のほかに壁の途中にも瓦屋根を作る「水切り瓦」や、漆喰の成分に糊を使わない独特の「土佐漆喰」、半分に割った石を積み上げて崩れにくくした「いしぐろ」よばれる石塀など、独特の建築法が発展しました。

御田八幡宮の参道から眺める吉良川の街並み

 この美しい街並みはいまも受け継がれていて、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。室戸市教育委員会が街角に設置した説明板を読んでいたら、土佐は「暴風多雨の気候風土を持つ」と書かれていました。ちょっと大げさな表現にも思えますが、地元の人たちはこの土地の雨風に相当苦労してきたことが伝わってきます。ちなみに水切り瓦や土佐漆喰を使った蔵は修理などの維持費も相当かかるそうです。

 伝統的な蔵を生かした街並みの一角に遍路宿「蔵空間茶館」があります。蔵屋敷の内側には中庭が広がっていて、ローマ建築のパティオみたいでした。あえて空調設備を使っていない遍路宿なので、和室に蚊帳を吊ってもらって寝たのですが、夜になると海の音とともに、黒潮が運んできた濃厚な潮風が部屋のなかにまで入ってくるのがわかりました。南洋から何かがやってくるような不思議な感覚があり、なんだか童心に返ったような気持ちになりました。

水切り瓦など伝統的な蔵建築を生かした遍路宿「蔵空間茶館」の外観

 こうした「暴風多雨の気候風土」は、きっと山岳信仰とは別のかたちで自然への畏敬につながり、四国八十八ヶ所巡礼の成り立ちや持続に関わっているような気がします。

[歩いた日]2016.10.8

 ➡️ブログ「神祭の吉良川散歩」 http://ohenro-online.com/tosa-ed/kiragawa/

 

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