コロナ禍の歩き遍路

 3月末から4月初めにかけ、足摺岬近くの大岐海岸から宇和島まで、満開の桜に彩られた遍路道を歩いてきました。コロナ禍の終息が見えない中、お遍路さんに行ってもいいかどうか迷っている方も多いかと思います。2021年3月末現在、歩き遍路の数は徐々に増え始め、地元のみなさんの雰囲気もほぼ落ち着いてきています。もちろん感染対策に心掛けながらですが、いつものように歓迎していただき、笑顔とお接待の心配りはそのままでした。
 ただ、札所にお参りしているのは、ご夫婦など自動車で回る1~2人組のお遍路さんか、一人で巡拝している歩き遍路ばかり。先達さんが案内するグループやバスツアーの姿は見当たりません。「密」を避ける意味では当然の判断と思いますが、宿や飲食店の需要、お寺の納経代などは激減しているそうです。営業を停止している遍路宿や宿坊もあり、経営的にも大きな打撃を受けているとの切実な声をいくつも聞きました。これまで多くの歩き遍路がお世話になってきた、遍路宿のおやじさんやおかみさんが本当に困っています。

2年ぶりに大岐海岸の砂浜に足跡がついた。

 

 コロナ禍のいま、歩き遍路をやっていいものかどうか。私自身、昨年3月には遍路宿のおかみさんから「いまは怖いから、宿を閉めます」と言われて予約がキャンセルされ、予定していた歩き遍路を取りやめました。昨年4月に政府が緊急事態宣言を出すと、多くの札所で納経所が一時閉鎖され、地元のみなさんからお遍路さんが嫌がられることもあったそうです。
 遍路道が通っている自治体の中には、例えば、高知県土佐清水市のように、新型コロナウイルスの感染者が一人も確認されていないところもあり、よそ者であるお遍路さんを警戒するのも当然でしょう。
 一方で、新型コロナウイルスの特性が徐々に分かってきて、マスクの着用を徹底し、集団での会話や会食をしなければ感染リスクが大きく下がるといった、対策の知見も蓄積されてきました。今年1月になって再び大都市圏を中心に非常事態宣言が出されましたが、対策は飲食店の時短営業に集中され、学校を一斉休校させる自治体はありませんでした。そういう意味では、「コロナウイルスを正しく怖がる」ことが大切になってきているのだと思います。

 こうした状況下、3月21日に首都圏の緊急事態宣言が解除されてから4日後、3月25日に高知・足摺岬に近い大岐海岸から歩き始めました。2年前の3月に区切り打ちを中断した場所です。

 今回、2年ぶりに遍路道を歩いてみた私の体験では、「密」にならない状態のお遍路であれば、地元のみなさんも歓迎してくれるように思います。自分ひとりの歩き遍路だけでなく、日常的な濃厚接触者となっている夫婦や家族が自家用車で巡拝することも問題ないようでした。もちろん、札所や店舗、地元のみなさんが歩いている道では、マスク必携です。
 それに比べると、家族など日常的な濃厚接触者以外が参加するグループやバスツアーは、なかなか難しい印象を受けました。お遍路ではありませんが、一般のバスツアーでは、車内でおしゃべりしながらお弁当を食べたことが原因で、前後左右の乗客が次々と新型コロナウイルスに感染するクラスターが発生した事例もあります。
 昨年秋に政府がGO TO トラベルを推奨したときには、観光バスが足摺岬などに向けて次々と発着したそうですから、グループやバスツアーによるお遍路さんが動き出すためには、政府によるGO TO トラベルの再開がひとつのバロメーターになるかもしれません。

 コロナ禍が続く中、感染対策に気を配りながら、ゆっくりと再開した歩き遍路の様子を順次報告します。お互いにマスク姿であっても、遍路道で出会うみなさんの笑顔はいつものように穏やかでした。

 2021年4月4日記

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