沙門空海偲ぶ深山の遍路道
室戸岬と石鎚山ー。この2カ所は四国の霊場のなかでも古代から特別な存在とされています。そのうち石鎚山に関係の深い四国八十八カ所の札所と言えば、石鎚山に連なる標高745mの山中にある第60番札所・横峰寺でしょう。
横峰寺は、お遍路さんにとって「遍路ころがし」と呼ばれる難所として有名です。いまは林道が本堂から徒歩10分の駐車場まで開通しており、マイクロバスも運行されていますが、空海がひとりの沙門としてたどった霊場だと思うと、やっぱり自分の足で登ってみたくなります。そこで前日宿泊したホテルのある伊予富田駅から電車で伊予西条駅に移動し、松山行きの路線バスに乗り換えて、大頭バス停からスタートすることにしました。このバス停は大頭と書いて「おおと」と読むそうです。
大頭バス停から妙谷川に沿って舗装道路を約6km歩きます。だんだん傾斜が出てきて、ペースを崩しやすいところです。舗装道路の終点には東屋と駐車スペース10数台分があり、ここから山道に入ります。急登であってもところどころに清冽な沢水が流れており、樹相にも変化があって、山歩きの楽しさが味わえます。あちこちに石畳が敷いてあり、道ばたには苔やシダが生えていて、しっとりと落ち着いた風情です。
この山道は舗装道路の終点から横峰寺まで地図上の距離でわずか1.6kmほどなのですが、標高差は565mもあり、かなりの急勾配を折り返しながら登っていきます。きつい登りが続くので、時間に余裕を持って計画されることをお勧めします。私は1時間15分ぐらいかかってしまいました。
私が訪れたときは空模様が怪しく、横峰寺に向けて標高があがるにつれ、もやが発生。横峰寺の手前にある星ガ森への分岐点に着いたときには、おやまはすっかり霧の世界に包まれ、白衣もしっとり濡れてしまうほどでした。星ガ森石鎚山の礼拝所として役行者の時代から伝わる霊場で、空海が星供(ほしく、星祭り)を行ったところです。横峰寺の本堂に着いたのは正午すぎ。ずいぶん薄暗い感じでした。
若い頃からひとりの沙門として修行し続けた空海にとっても、室戸岬と石鎚山は特別な霊場だったと思われます。室戸岬は言うまでもなく「明星来影す」とつづった神秘体験の現場ですし、西日本の最高峰である石鎚山も空海を鍛えた修行場でした。空海は若い無名時代だけではなく、唐で密教の奥義を伝授され、京の都で位階を極めて以降も、ときどき消息の定かでない時期があって、そのときに四国や畿内各地で修行をしていたとみられています。
四国八十八カ所を巡礼しているうちに、どれほど名声を得ても、ひとりの沙門としての横顔を持ち、四国の山野で修行を続けた空海への共感がだんだん深くなっていきました。お遍路さんを経験した高野山のあるお坊さんから同じような感想を聞いたこともあるので、お遍路さんの経験者にはよくある傾向なのでしょう。深山の修行場という独特の空気感をいまも濃厚に保っている横峰寺は、お遍路さんにいろいろな感慨を抱かせてくれる札所です。
【第19日 午前の部】
[歩いた日]2016.10.19
[コース] 今治市内-伊予西条駅-大頭バス停-横峰寺-香園寺ー宝寿寺ー吉祥寺-伊予西条駅
[天気] 曇り
[歩行距離] 27.8km
[歩数] 3万6245歩
【利用した公共交通機関】
<伊予富田駅ー伊予西条駅>
JR四国 予讃線
料金 550円
URL http://www.jr-shikoku.co.jp/01_trainbus/jikoku/
<JR西条駅ー大頭バス停>
せとうちバス 特急新居浜〜松山線
料金 580円
URL http://www.setouchibus.co.jp/05jikoku/niimatsu/niimatsu_tokkyuu.htm