​ 5体の御本尊に宿る歴史

 この日はJR高知駅から鉄道とバスを乗り継ぎ、第37番札所・岩本寺を経由して、第38番札所・金剛福寺のある足摺岬に向かいます。前日たどりついた須崎市から足摺岬まで116kmなので、歩き遍路なら片道4日間ぐらい必要な「修行の道場」です。公共交通機関を使えば、歩き遍路よりもはるかに短い時間で着きますが、それでも特急とバスをあわせて4時間半はかかるので、所要時間は高知から特急+新幹線で新大阪に行くよりも長くなってしまいます。交通網が発達した現代でも、足摺岬はやっぱり最果ての地であることに変わりありません。

 一日中ずっと乗り物に揺られているので、この日は歩き遍路と言うよりもローカル線とローカルバスの旅といった感じ。強い味方となるのは、お得な切符「四国西南周遊レール&バスきっぷ」です。高知駅から松山駅までの鉄道とバスを片道で好きなだけ乗れる切符で、特急の自由席にも乗れます。2016年の料金は5,500円で4日間有効だったので、これを使い倒して先に進もうと考えました(2017年は料金6,300円で、有効期間は4日間、バス券は5枚まで)。

 JR高知駅を8時20分発の特急「しまんと1号」で出発し、窪川駅に9時26分に到着。15分ほど歩いて旧市街に入り、道が少し細くなると、ほどなく第37番札所・岩本寺の山門がみえました。門前には土産物店などが並んでいて、庶民的な雰囲気が漂っています。山門をくぐると、それほど広くもない境内に本堂や太子堂など伽藍がが所狭しと並んでいて、本堂に向かいには立派な構えの宿坊がありました。

第37番札所・岩本寺の本堂。御本尊が5体お祀りされています

 岩本寺には御本尊が5つもああります。不動明王、観世音菩薩、阿弥陀如来、薬師如来、地蔵菩薩。それぞれ扉の閉まった厨子に安置されていたので、お姿はわかりませんでしたが、本堂の入り口には5つの御本尊の名前と般若心経に続いて唱える御本尊の真言が参拝者のために書いてありました。

  それにしても、なぜ御本尊が5つもあるのでしょうか? 当然ながら由来があるはずでしょう。宗教民俗学者・五来重博士の著書「四国遍路の寺」(上下、角川ソフィア文庫)をチェックしたところ、第37番札所は江戸時代には「五社」という仁井田地区にあった5つの神社が札所でした。四国八十八カ所霊場にはお寺ではなく、神社が札所になっているところもありました。この札所の場合、仁井田五社それぞれの別当寺にあった本地仏が明治時代の廃仏毀釈などの曲折を経て、いまは岩本寺の本堂に御本尊としてまとめてお祀りされている、とのことでした。江戸時代のお遍路ガイドブックである眞念の著書「四國遍禮道指南」(しこくへんろみちしるべ)をみても、第37番札所は「五社」と書いてあり、江戸時代のお遍路さんは仁井田地区にある5つの神社を順番に参拝したそうです。やはり5つの御本尊をお祀りしている背景にはかなり複雑な経緯があるようです。これらのご本尊は地元にはずいぶん親しまれているらしく、境内には参拝者が絶えない様子でした。

 駅に戻る途中、道路沿いにある木肌を生かしたデザイン性の高い建物が目に飛びこんできました。おしゃれな外観なので先ほど駅から歩いてきたときにも気になっていたのですが、玄関前に立ってみると、この建物は四万十町の役場だとわかりました。ヒノキの間伐材を使ったセンスのいい町役場として有名だそうです。四万十川は砂防工事のない自然な流れを保っている河川として全国的に知られているだけに、その名前を冠した四万十町もエコなイメージを打ち出しているのでしょうか。エントランスホールに入ると採光がとても良く、明るく柔和な印象を与える町役場でした。

ヒノキの間伐材を使った四万十町役場の庁舎。内部は柔らかな採光が心地いい空間です

 

【第13日】
[歩いた日]2016.10.13
[コース]高知市中心部-窪川・岩本寺-中村-足摺岬・金剛福寺-足摺テルメ
[天気]曇りときどき晴れ
[歩行距離]9.4km
[歩数] 1万2589歩
 
【利用した公共交通機関】
 <高知-窪川>
 JR四国・特急しまんと1号
「四国西南周遊レール&バスきっぷ」を利用
 利用しない場合:2,640円(乗車券1460円+自由席特急券1180円)
 <窪川-中村>
 JR四国・土佐くろしお鉄道・特急あしずり1号
「四国西南周遊レール&バスきっぷ」を利用
 利用しない場合:1,500円(乗車券1090円+自由席特急券410円)
 <中村-足摺岬>
 高知西南交通バス
「四国西南周遊レール&バスきっぷ」を利用
 利用しない場合:1,900円
 
   <四国西南周遊レール&バスきっぷ> 
  http://www.jr-eki.com/ticket/brand/1-00A
 
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