古道を伝える焼山寺道
四国八十八カ所霊場を徒歩でたどるお遍路さんは、あちこちに散らばる山道の難所を「遍路ころがし」と呼びます。そのなかでも、もっともハードな行程と言われるのが、第11番札所・藤井寺から第12番札所・焼山寺への山岳ルート。平安初期に弘法大師が歩いた当時の雰囲気が最もよく残っているルートとも言われています。前日までの雨のおかげで、山道は非常に滑りやすい状態になっているはず。先を急がず、じっくり歩くことにしました。
藤井寺から焼山寺まで続く焼山寺道は全長12.7km。ハイキングコースとして距離はそれほどでもないのですが、海抜ほぼ0mからアップダウンを繰り返しながら745mに登り、それから400mくらい下ってまた700mに登り返す、というところに厳しさがあります。それだけ標高差があるわけでして、これが体力を消耗させます。「遍路ころがし」の急坂は、このルートの中に6カ所あるとされていて、ゴールの焼山寺に近づくほどアップダウンが激しくなります。健脚なら5時間、ゆっくり歩くと7、8時間かかるルートです。
午前6時に起きて朝食を済ませ、午前6時50分に旅館吉野を出発。午前中は雨が残るとの天気予報だったので、ザックをレインカバーで覆いました。藤井寺本堂の左側に並ぶ苔むした石仏に見送られながら、山道を登り始めます。すぐに勾配がきつくなってきて、「遍路ころがし」の看板を横目にみながら、急登にあえぐはめになりました。40分ほど歩いて端山休憩所に到着、思わずザックを下して小休止。このあたりからルートはやや緩やかな巻き道になり、だんだんペースがつかめてきました。
豊富な湧水がある水大師を過ぎ、長戸庵を越えた先に吉野川と讃岐平野を見渡せるところがあったので再び小休止。空が明るくなってきたのでザックのレインカバーをしまいました。柳水庵という御堂を越えてまもなく、林道と合流したところに、お遍路さん向けの休憩所があります。寝袋があれば宿泊もできそうな、しっかりした小屋です。
歩きやすい林道を快調に飛ばしていくと、いつのまにか、再び急な登りに突入。じぐざぐに刻まれた山道をたどりながら高度を上げ、やがて石造りの階段にたどり着きました。肩で息しながら、ふと、階段の先を見上げると、薄いもやでかすむ頂上に、大木を背景にした空海の立像がすくっと建っていました。あたりには誰もいません。物音ひとつしない静寂な山奥で、霧の中からお大師さまがいきなり現れたような気がして、思わず背筋がぞくっとしました。
階段を登りきったところが、藤井寺と焼山寺を結ぶ焼山寺道の最高地点となる一本杉庵でした。浄蓮庵とも呼ばれる一本杉庵の標高は745m。大きな樹木に囲まれた頂上には、弘法大師の立像だけでなく、苔に包まれた石仏や御堂が所狭しとならんでいて、霊場独特の空気が立ち込めています。ベンチに座って休みながら、四国八十八ヶ所巡礼の長い歴史を感じないではいられませんでした。
一本杉庵を越えると、急な下り道になります。大きな岩を避け、小刻みに曲がりながら一気に高度を下げていく道筋は、現代の一般的な登山道よりもずっと急です。まして、先ほどまでの歩きやすい林道とはまったく異なります。それでいて道がよく踏まれているところをみると、このあたりの遍路道は古道の雰囲気をよく伝えているのかもしれません。
すだち畑が複雑に入り組んだ谷あいの集落に降り、そこから何度か沢を渡って再び急な登りになります。目的地の焼山寺まで一本杉庵から標高差で400mくらい下り、すぐに350mくらい登りなおす。このあたりが思ったよりもきつかった。
焼山寺に着いたのは午後1時30分を過ぎていました。藤井寺から休憩時間を含めて6時間30分かかっていたので、平均よりやや遅いペースだったと思います。 お参りを済ませ、納経所のわきにあるベンチで大休止。道中最初の「遍路ころがし」は無事に終了しました。ああ、疲れた。
【第3日 午前の部】
[歩いた日] 2016.9.30
[コース] 藤井寺-焼山寺
[天気] 曇り
[歩行距離] 24.1km(旅館吉野-すだち館)
[歩数] 31,741歩