善根宿のハプニング

 そんな善根宿に泊まるのは、私にとっても初めて。どうなることやらと思いながらリズさんと2人で宿に着くと、ゆかいなハプニングが発生しました。おかみさんから「きょう泊まるのは2人だけ。近くにいい温泉があるから入ってきて。車貸すから」といきなり言われ、軽自動車のキーを渡されてしまいました。レンタカーでもないのに、宿の車を運転して、万一、事故でも起こしたらどうしよう、といささか困惑しながら理由を聞いてみました。

 それによると、すだち館ではお風呂が小さな家庭用風呂なので宿泊者を近くの神山温泉に案内することが多いのだが、このごろだんなさんがご高齢になって運転が大変になってきているうえ、きょうはいつもドライバーを頼んでいるひとが夕方5時半にならないと帰ってこない。だから、軽自動車を貸すので、自分たちで日帰り温泉に行ってきてほしい、とのことでした。

 隣りにいるオーストラリアのリズさんに説明したところ、「前回すだち館に泊まった時も神山温泉に連れて行ってもらって、とってもよかった。でも、僕はガイジンだから日本の免許がない。携帯電話もない」と大げさなジェスチャー付きで話してくれました。ちなみにリズさんは日本語をほとんど話せません。私に対しても、最初に「こんにちは」と話しかけてきた時だけ日本語で、それ以降はずっと英語で通しています。これまでの遍路旅では、英語がまったく通じない四国の片田舎でも、英語とジェスチャーだけでなんとかコミュニケーションをとってきたそうで、これはかなりの度胸がないとできないことではないでしょうか。

 こうなると、すだち館の軽自動車をお借りして、私がドライバー兼通訳になり、30分前に知り合ったばかりのオーストラリアのおじさんといっしょに日帰り温泉施設にいくしかないですね。でも、初めての土地なので道がわからない。道路地図もないので、すだち館のだんなさんに地図を描いてもらったんですけど、まるで象形文字みたいな線画が出てきて(笑)、とてもたどりつけそうにありません。どうしたものかと思っていたところ、カーナビ代わりに僕のiPhoneでGoogle Mapを設定すればいいことに気づきました。でも、iPhoneを運転席に固定するスタンドがなかったので、運転中はリズさんが私がiPhoneを見えるように持ってくれることになりました。

⇒リズさんが4回目のお遍路さんにきた理由は…

神山温泉の日帰り温泉施設の前に立つリズさん

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