室戸岬の突端近くにある海食洞窟の御厨人窟(みくろど)は、修行していた空海の口に星が飛び込んだと伝わるパワースポット。この神秘体験を得た空海は、洞窟から外に出て眺めた広い空と海に強い印象を受け、「空海」の名前を思いついたという見方もあります。
こうした見方について、空海の伝記について何冊もの著書のある宮崎忍勝は労作「私度僧空海」(河出書房新社)のなかで、空と海の心象風景から空海という名前が生まれたという説を退け、「空海の二字は大乗仏教の中心思想の一つである般若の空智と、海印三昧という『華厳経』の思想にもとづくものではなかろうか」と指摘しています。
実際の御厨人窟に行ってみると、海岸線まで200mくらいの距離がありました。室戸岬は沖合で地殻のプレートがぶつかりあっているため地殻変動が激しく、ジオパークに指定されているほど。地表の隆起も顕著で、平安時代から現代までに約6mも隆起しているそうです。
この影響で、空海が修業した時には海岸線に面していた御厨人窟は、いまではすっかり山側に押し上げられています。そのうえ、目の前にある国道55号線には乗用車やトラックがびゅんびゅん走っているので、いま御厨人窟の前に立ってみても、空海が感激しながら眺めた空と海の印象はありませんでした。
それでも、御厨人窟から数分歩いて海岸線に出ると、群青色の太平洋が広がっています。沖合には貨物船が航行し、空はとても高い。空海が修業した平安時代初期には、御厨人窟のすぐ前に、こんな風景が広がっていたはずでしょう。そんな感慨が勝手に湧き上がるままにシャッターを押しました。