現代のお遍路さんは「歩き」「クルマ」「バス」の3タイプ

 四国八十八ヶ所巡礼のお遍路さんはいま、年間何万人くらいいるのか、正確な数字はわかりません。四国八十八ヶ所巡礼はどこの札所からスタートするのか順序に決まりはありませんし、区間や日数を区切って一部の札所を巡礼したり、バスツアーでも十カ所詣りや七カ所詣りとして八十八ヶ所霊場のいくつかを選んで巡礼することもあるので、経済効果をきちんと計測できるような統計的な数字は存在しないと言っていいでしょう。

 インターネット上で検索したところ、神戸市立図書館がリクエストに応じて資料を調べた結果がでてきましたが、お遍路さんの人数は年間5万人から30万人まで資料によって人数がまちまちです。それぞれの札所は、納経所で受け取る納経料(300円)から概算の参拝者数がわかりそうなものですが、山奥のあるお寺では「年間5万人は超えていると思うが、10万人にはまったく届いていない。年によって違うけど、6万人から8万人くらいじゃないでしょうか」と話していました。善通寺など観光客にも人気の高い都市部の札所は、もっと参拝者が多いと思われます。

第17番札所・井戸寺の参拝を終え、JR府中(こう)駅からJR徳島駅に向かう車窓風景

 現代のお遍路さんは、ほとんどの場合、①バスツアー ②マイカーあるいはレンタカー ③歩き-のいずれかを利用していますので、「バス遍路」「クルマ遍路」「歩き遍路」という3つのタイプに分けることができます。この3タイプの割合について、いくつかの札所に聞いてみると、「全体の半分以上がバスツアーとみられ、次がマイカー。歩き遍路は全体の5%ぐらいで10%はいかないだろう」という見方をしていました。昨今のお遍路さんの人数を仮に年間6万人から8万人と想定すると、歩き遍路の人数は年間で3000人から8000人未満という計算になります。

 男女別の割合や年齢構成などはよくわかりません。私が公共交通機関を使いながら25日間かけて四国八十八ヶ所霊場を回った印象では、バス遍路は女性が多いように思えますし、クルマ遍路はご夫婦連れが多かったように感じました。

 歩き遍路は本当にひとそれぞれです。中高年男性が多いようなイメージがあるかもしれませんが、そうとも限りません。20歳代や30歳代で転職を機に時間を作って四国八十八ヶ所霊場を一気に歩いて回る「通し打ち」に挑戦しているお遍路さんにも何人も会いました。こうした20歳代や30歳代の歩き遍路は男性と女性が同じくらいの割合かもしれません。菅笠や金剛杖といった伝統的なお遍路さんグッズを使わず、トレッキング用の装備で身を固めていて、一見すると、お遍路さんにみえない人もいました。

 30代から50代のサラリーマンで四国遍路の魅力にハマってしまい、何度も八十八ヶ所霊場を巡礼している人もたくさんいました。このひとたちは仕事の関係から年に数回、数日から一週間程度の休暇をとって四国八十八カ所霊場を部分的に巡礼する「区切り打ち」が主流で、札所に巡礼することよりも自分が気に入った遍路宿に泊まることを楽しみにしている人が多いようでした。これも一種の「お四国病」なのだと思います。

 私は当初、歩き遍路は、サラリーマン生活を終えて年金暮らしに入った中高年男性が多いのではないか、と思っていたのですが、その予想は外れました。これは、体力的な問題が影響しているような気がします。定年を迎えたら四国八十八ヶ所霊場を歩いて回りたいと考えている方もいらっしゃると思いますが、すべての行程を歩いて回ろうとすると1200kmを歩くことになり、毎日30km歩いても単純計算で40日間かかります。天候状態なども考えると、50日間ぐらいかかりそうです。

 これだけの距離を40日間から50日間かけて歩き続けるためには、けっこう体力が必要です。都会暮らしのサラリーマンの場合、普段から歩いたりスポーツをやっていなければ、いきなり1200kmの徒歩旅行に出かけるのは難しいのではないでしょうか。実際、私が遍路旅の途中でお会いした方でも、第一番札所・霊山寺から歩き始めてすぐに足にまめを作ってしまい、20kmも歩かないうちに計画変更を余儀なくされた方がいました。日本では、少子高齢化のおかげで年金支給開始年齢は65歳に引き上げられてしまったので、定年を迎え、さあ四国遍路に出ようと思っても、すべての行程を歩き通すほど体力に自信が持てない方が多いというのも現実なのかもしれません。

 私がお会いしたリタイア組の方には、ご夫婦でクルマ遍路として巡礼していたり、歩き遍路の場合でもいくつかの区間にわけて巡礼する「区切り打ち」を選ぶ方が多いようでした。四国遍路には、これが正しいというかたちが決められているわけではないので、自分にあったスタイルをみつけることが大切なのだと思います。

 私は全行程1200kmのうち、公共交通機関を使いながら約520kmを25日間かけて歩いたのですが、こうしたかたちで公共交通機関を併用すれば、体力的にはかなり楽になります。また、所要日数を短縮できる分、費用として安上がりという側面もあります。ただ、公共交通機関はバスの本数が一日数本しかなかったり不便なことも多いですし、公共交通機関を遍路旅に活用するガイドもあまりありません。その情報をまとめて提供しようというのが、このブログサイト「お遍路オンライン」を立ち上げた理由のひとつでもあります。

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