根来寺:鬼瓦と風鐸に込められた魔除けの願い
根来寺の大伝法堂の大きな屋根から周囲に睨みをきかせる鬼瓦です。根来寺が直面してきた歴史の荒波を考えると、この立派な鬼瓦には魔除けを求める強い願いが込められているような気がしました。
案内板によると、大伝法堂は「根来寺を総括した本堂」と位置づけられています。
歴史をたどれば、平安後期に停滞していた真言教学の復興を目指した覚鑁(かくばん)上人が高野山に創設した教学の拠点が大伝法院でした。皮肉なことに、改革を目指した覚鑁上人の動きは高野山内部を二分する抗争に発展したことは以前に書きましたが、そのときに覚鑁上人らのグループは大伝法院の名称から「院方」と呼ばれ、対立したグループは金剛峯寺を拠点としたことから「寺方」と呼ばれてきました。この対立は兵士たちまで動員される事態になり、敗れた覚鑁上人は弟子たち700人とともに高野山から根来寺に脱出。現在の新義真言宗につながっています。
そうした経緯をみても、根来寺の大伝法堂は、覚鑁上人の教えを受け継ぐひとたちにとって大切な建物なのだとわかります。本尊は大日如来。左脇に金剛薩埵(こんごうさった)、右脇に尊勝仏頂尊が安置されています。大日如来は密教の根本仏で、金剛薩埵は大日如来と衆生をつなぐ菩薩です。尊勝仏頂尊はあまりおみかけすることのない仏像ですが、真言宗では尊勝陀羅尼という除災や病気平癒などを祈願する陀羅尼が大切にされてきており、尊勝仏頂尊もそうした覚鑁上人の遺風を受け継ぐ仏様なのだと思います。新義真言宗の一派である智山派では毎年12月に夜を徹して尊勝陀羅尼を唱える伝統があるそうです。
現在の大伝法堂は享和元年(1801年)に再建されたもので、この鬼瓦もそのときに取り付けられたものなのでしょうか。
鬼瓦には悪霊が寄り付くのを避ける厄除けの意味とともに、棟の先端部から雨が染み込むのを防ぐ実用的な狙いがあるそうです。大伝法堂の鬼瓦は、外気が引き締まった冬空の下、威風堂々といった印象でした。
寺院の魔除けとしてはもうひとつ、屋根の四方に吊り下げられた風鐸が目を引きます。風鐸とは青銅で作られた鈴です。強めの風が吹くとカランコロンと鳴り、この音が届く範囲には邪気が近づかないと言われます。
写真は根来寺の象徴である大塔に吊り下げられた風鐸です。大塔は豊臣秀吉が根来寺を攻めたときにも奇跡的に焼失しなかった建物なので、この風鐸にも相当な年輪が刻まれているのかもしれません。
この日は夕方まで澄んだ青空が広がっていて、風鐸のシルエットがくっきりと映えていました。
[歩いた日] 2017.12.21
[天気] 晴れ